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ディズニー長編アニメ/初めてのヒーローは、アラジン。 [ディズニー長編アニメ再発見]

ディズニー長編アニメ再発見―18
ディズニー< はじめて.>ものがたり―4

ディズニー長編アニメ、初めてのヒーローは、アラジン。
●「ディズニー長編アニメ再発見」の過去記事は、画面左袖の「マイカテゴリーから選んでクリックすると、一括してご覧いただくことができます。

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●でも、今回の主役は「ターザン」に登場していただきます。 

●「おとこ」が主演のディズニー映画はたった3本。
この「ディズニー長編アニメ再発見」は、2000年までに制作されたCG作品を除いた作品群、つまり最初の長編「白雪姫」(1937)から「ターザン」(1999)まての32本を対象に書いています。

最近は50歳を過ぎても「女子」だそうですが、一般的に女性は成長過程によって「女の子」「女子」「女性」のように呼ばれてきました。ディズニー長編アニメの多くはいわゆる「女の子」が主人公で、「女の子」から「女子」へ、「女子」から「女性」への成長過程が描かれて人気を博してきました。 

では、男子が主人公の作品はなんだろう?と探してみたのですが…。
ダンボ、バンビ、ロビン・フッドをはじめ、「ニューヨーク子猫ものがたり」のオリバー、「ライオンキング」のシンバは男の子ですが、みんな動物。

数少ない人間では「王様の剣」でのちにアーサー王になるワート少年、「コルドロン」の豚飼い少年ターランがおりますが、どちらも主役を務めるほどの役割を持たない子供です。
では「コルドロン」の主役はホーンド・キングかと言えば、彼は魔法の大釜コルドロンで蘇らせた死者を操って世界制覇を狙う邪悪な魔王です。それをヒーローとは呼べません。


●男性が主人公の最初のキャラクターは「コルドロン」のホーンド・キング?

ところが1990年以降、ようやく文句なしに男子が主人公と誰もが認める作品が登場しました。「アラジン」(1992)、「ヘラクレス」(1997)、「ターザン」(1999)3本です。
ということは、ディズニー長編アニメではじめてのヒーローは「アラジン」ということになります。

ヒーローからイメージされるものは人間離れした男性です。例えばアラジンは人並み外れた盗賊。ヘラクレスは神話の男神。ターザンはジャングルの野生児です。もっと言えばアラジンの容姿は人並みですが、身軽な動きは軽業師。ヘラクレスとターザンはムキムキのキン肉マンです。いずれにしても超人。でなければアニメはもちません。

ディズニーのこの”ヒーローもの”の3作品のうちの、「アラジン」と「ヘラクレス」についてはこれまでにそれぞれ1項を割いておりますので、ここでは「ターザン」を中心にお話ししましょう。

●生い立ちが子供の将来を決める? ここ、決定的に重要です。
物語の始めはヒーローの生い立ちの紹介です。
船が難破し、辿り着いた南海の孤島で幼いターザンと樹上生活を始めた夫婦でしたが、ある日人食いトラに襲われる。父母を無くしてみなしごになったターザンは、子供を亡くした母ゴリラに育てられる・・・。

この導入部の生い立ちは、「ヘラクレス」では、生まれたばかりで父親のゼウスを持ち上げたり稲妻をおもちゃにして神殿を壊したりと、大変な力持ちだったという描写になります。けれども「アラジン」にはこの生い立ち部分がありません。アラジンにあるのは「いま」だけ。今がよければ、今が楽しければ、と毎日を楽しんでいます。その実、それは大変な努力。その努力を努力と思わずに楽しくやってのけられるのがアラジンの身上でした。 

ちなみに、主人公の生い立ちを描いた作品は「ダンボ」「バンビ」「ライオン・キング」…と多いのですが、中でも「きつねと猟犬」は、大きくなれば追う/追われるという宿命的な立場にある二人の生い立ち自体が物語全体の核となっている作品です。

このようにディズニー長編アニメの主人公は、一部の作品を除いてほとんどが両親の優しい愛情に包まれて成長しています。
日本でも「三つ子の魂、百まで」ということわざがあるように、子供の性質は3歳までに決まる。その幸せな成長は幼少期の両親の愛情が形作る、ということをディズニーはいつも伝えているような気がします。

●ようやく本論。「ターザン」について。
エドガー・ライス・バローズは1914年に「ターザン」を発表。以来、30冊以上のシリーズを書き、1918年に同名の映画「ターザン」が作られてから、戦後も毎年のようにターザン映画が封切られるほどの人気者で、その数32作。戦後世代には他の追随を許さない唯一無二のヒーローでした。

ところがディズニーの「ターザン」は20世紀も終わろうとする1999年の作品ですから、ターザンがどう描かれるのか、どう受け止められるのか、興味がありました。

不死身の鉄人ターザンが、それまでの超人ではなく、原作を重視して人間として描かれ始めた最初の映画は「グレイストーク・類人猿の王者/ターザンの伝説」(1983)といわれますが、以後アメリカでは再びターザンへの関心が高まり、その人気復活に大きく寄与したのが「ターザン、ニューヨークへ行く」(1989)。以後テレビシリーズも作られたということで、現代の世代にも知名度は結構あったようです。

映画全体の流れは良く知られたターザン伝説を踏襲しています。ターザンは実は英国貴族グレイストークの息子。だから野生児であっても決して粗野ではなく、本来持ち合わせているジェントルな面が仲間のゴリラたちやジェーンに対してもすぐに表れます。このように、たくましくも心優しいヒーロー像は、「アラジン」でも「ヘラクレス」でも共通しているように感じます。ターザンとジェーンとの初めての出会いは樹の上というシチュエーションの違いはあっても、フェミニストな本性は変わっていないようです。

●理屈抜き。ジェットコースターと音楽を楽しむ映画。
ジェーンは動物学者ポーター教授の娘で、育ちの良さを反映した淑女です。親子はゴリラの生態研究のためにターザンと動物たちが棲む島に、探検家のクレイトンをガイドとして上陸します。クレイトンは実はゴリラを捕らえてイギリス本国で売り払い、利益を上げようとの下心があり、動物たちを仲間とするターザンと対立します。

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●ヒヒの群れの襲撃からジェーンを救出するターザン

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●ターザン! 壁ドンはずるいよ。

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●・・・だよなあ。

ターザンとジェーンの出会いは、ヒヒの大群に襲われたジェーをターザンが救った時ですが、二人とも適齢期ですぐに気持ちが通じて、お互いに好意を持ちます。二人がキスをする機会は2度ほどあるのですが、ターザンはマナーを知らないし、ジェーンは控えめです。そして3度目にようやく実現。時代は19世紀ですから、男女の愛の表現プロセスはそんなものでしょう。
ターザンに妨げられてゴリラ捕獲の成果を上げられないクレイトンらはイギリスに帰還することになり、ジェーンにターザンとの別れの時がやってきます。ところが二人の事情を知る教授の計らいで、ジェーンも(そして教授まで)島に残ることになって、めでたしめでたしというお話です。
ということでこの作品では、原作にある文明批判のようなものはほとんど描かれていないのが、若干物足りない気がします。

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●ジェーンも淑女のドレスをかなぐり捨てて・・・ 

このようにお話は大きく変わっていないのですが、実は「ターザン」には、アニメならではの見どころ、聴きどころが計算されていました。まず見どころでは、ターザンが樹上を走るシーンはまるでジェットコースターのよう。空中でのアクションも多く、どれも手に汗握る緊迫感です。次に音楽。当時の花形フィル・コリンズが5曲を書き下ろし、そのうち4曲で自らボーカルを担当。アカデミー賞歌曲賞を獲得しています。 

この作品の制作当時の1990年代後半は、のちに(2006.1)ディズニー社に編入されるピクサー社による「トイ・ストーリー」(1995)、「バグズ・ライフ」(1998)というように、すでにCG100%のアニメ作品が次々と生まれていました。

「ターザン」はジャングルの背景をCGで描き、キャラクターは手書きによる制作手法でしたが、2000年以降はCG100%のアニメーションに向かうことになります。

(しかし、21世紀に入ってからも、手書きアニメ手法を尊重した作品も制作されています)

※この記事で「時計仕掛けの昭和館・別館」のキャパシティがいっぱいになりました。写真を入れられなかったので文字が多くなってしまいました。別館はこの記事が最後です。長期にわたりご愛読ありがとうございました。心より感謝申し上げます。<(_ _)>

※なお、当ブログはこの後「時計仕掛けの昭和館・喫茶室」となります。
 
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ディズニー再発見13 相手まかせじゃ、愛は不安定。 [ディズニー長編アニメ再発見]

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相手まかせじゃ、愛は不安定。
大きく変貌したディズニー映画のヒロイン像 ②

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●「美女と野獣」1991  魔法が解けた王子とベル

●「ディズニー長編アニメ再発見-1~4」は下記を。
   http://fcm.blog.so-net.ne.jp/archive/c45409934-1
●「ディズニー長編アニメ再発見-5~17」は下記をクリックしてください。
  http://fcmfcm.blog.so-net.ne.jp/archive/c2301486730-1

 誰でも知っている「ディズニープリンセス(ディズニー6姫)」。前回は、白雪姫、シンデレラ、そして「眠れる森の美女」のオーロラ姫の人となりについて展望しました。今回はそれからおよそ30年を隔てて現れた、あと3人のディズニープリンセスを展望してみましょう。

●人間の王子に恋をした人魚アリエル
 アンデルセンの「人魚姫」を元にした「リトル・マーメイド」(1989)は、一時期停滞気味の長編アニメーションへのてこ入れ策として、ディズニーの新経営陣が打ち出したおとぎ話復活路線の第1弾です。


 ヒロインのアリエルは、海の王トリトンの末娘で
16才。好奇心旺盛な彼女は陸上の世界を想い、海底に沈んだエリック王子の彫像に憧れを抱いています。ある晩停泊している帆船に近づいて、本物のエリック王子に一目ぼれ。
  ところが嵐になり、溺れる王子を助けたアリエルは、彼に対する感情を押さえることができなくなりました。けれども人間と人魚。許される恋ではありません。
 このようにこの作品ではアリエルが王子を見染めるのです。ディズニー映画ではこれまでにない全く新しい状況設定です。

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●憧れの王子を見に、自分から出かけて行ったアリエル

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●人間を愛してしまったアリエルは、自分の美声を犠牲にして魔女から2本の脚を得る。

 そこでアリエルはトリトン王に内緒で、海の魔女アーシュラに会いに行きます。トリトン王に代わって海底の覇者を目論むアーシュラは、アリエルが人間になるためには、3日後の日没までにエリック王子から真実のキスを受けることを条件に、アリエルの宝物とも言える美声と交換に彼女に両足を与えます。

 もちろんアーシュラは、アリエルの夢をかなえさせる気などありません。それどころか、その期限までの間にあらゆる妨害の手はずを考えていました。
 こうして人間の姿でエリック王子に会えたアリエルですが、声が出せないために想いを伝えることができません。3日はすぐに経ってしまい、その日の夕方になりました。

  アーシュラは王子や周りの者に魔法を掛けて若い女性の姿で王子の前に現れますが、間一髪、アリエルに声が戻りエリック王子も正気に(この描き方はご都合主義)。巨大ダコの姿で正体を表したアーシュラをエリック王子が成敗して、晴れてアリエルは、人間の姿でエリック王子のお妃になることができました。アリエルは自分の意志で、大きな犠牲もいとわずに、捨て身で愛を貫き通したのでした。


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●美女に化けて王子に取り入ろうとする魔女アーシュラ

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●おお怖わ。これがアーシュラの本性

●姿かたちではなく、本質を見抜く目を備えていたベル
 「美女と野獣」(1991)のヒロイン、ベルは、同じ年頃の娘たちがうつつを抜かしている粗野でうぬぼれ屋のガストンに言い寄られても、まったく意に介しません。この作品では、それまでのディズニー長編アニメーションのキーワード<Dreams  come  true.>は、ガストンがベルに言い寄る時に、「あんたの夢を叶えて上げられるのは、俺くらいのものさ」というニュアンスで、それまでのキーワードを茶化すような形で使われています。これは、以前の長編アニメからの脱皮をほのめかすものと考えられなくもありません。

 当のベルは、大好きな書物に埋もれてすてきな王子様との出会いを夢見ていますが、それが現実的でないことも承知しています。

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●読書好きのベルは、粗野なガストンに目を付けられてしまった。自信家は始末が悪い。
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 ところがある日、発明家のお父さんが森の中で道に迷い、野獣の棲む古城に捕らえられてから、彼女の運命は一転します。彼女は果敢にも年老いた父の身代わりに、人質として古城に留まることを選ぶのです。

 最初は野獣を恐れていたベルですが、日が経つに連れて少しずつ野獣の優しさも感じ取れるようになってきたある日、入ってはいけないと言われていた部屋を覗いて野獣の正体を知ったベルは、野獣に見つかり怒りを買って城から逃げ出します。待ち構えていたように彼女を取り囲むのは飢えた狼の群れ。ところがその危機を救ったのは野獣でした。その代わり、野獣は深手を負ってしまいました。手厚いベルの看護で二人の仲はぐっと狭まるのですが、ベルはお父さんのことが心配でたまりません。野獣は、ベルを帰してしまったら人間の姿に戻ることができなくなるのに、彼女を帰す決意をします。

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 一方、何としてもベルを我が物にしたいガストンは、ライバルである城の野獣に敵意を募らせていきます。ベルが戻ったのを知ったガストンは、期は熟したり、とばかりに村人を扇動して城に攻め込みます。ラストは屋根の上でのガストンと野獣の壮絶なバトル。駆けつけたベルの声を聞いて野獣も力強く応戦します。そしてやはり悪は滅び、正義が勝利するのですが、瀕死の野獣の命を蘇らせ王子の姿に戻したのはベルの愛でした。

 ディズニー・プリンセスが登場するこれまでの3作も、ラストはキスシーンでした。けれども、どれも眠りから目覚めさせるおまじないのようなキスでした。けれども「美女と野獣」は違います。こんなにもリアルで美しいキスシーン。それはディズニー長編アニメーション史上、初めてのものでした。
 そしてそれは、ディズニー長編アニメーションがもはや子供たちだけのものではなく、またアニメーションとしてではなく、普通の映画として楽しんでほしいと
のメッセージを込めて観客に向けられたものでした。

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●窮屈なお城の生活に嫌気が差した王女ジャスミン
 
それまでのヒロインが例外なく、王子さまと結婚してお城に住むことを夢見ていたのに比べて、「アラジン」(1992)が大きく異なる点は、ヒロインのジャスミンは始めからお城の王女さま。反対に、いつもお城を眺めて王子の生活を夢見ているのは貧乏人のアラジン、という真逆の設定であることです。これは新展開のディズニー長編アニメーションが初めて見出した斬新な切り口です。

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●お城はアラジンにとっては憧れの場所。ジャスミンには帰りたくない退屈な場所。


 舞台はアラビアのアグラバーの都。彼女は退屈なお城の生活に嫌気が差して、街の雑踏を見下ろしながら庶民の生活に好奇心を燃え上がらせています。そんな彼女ですから、お忍びで歩く街中でアラジンと出会って、意気投合したとしても不思議はありません。

 一方、お城では王様がジャスミンの結婚を進めようとしていますが、ジャスミンは候補者をみんな袖にしてきました。この作品でジャスミンはアラジンとも対等に張り合います。場合によってはジャスミンがアラジンをリードする場面もあります。

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 アラジンは身分が違いすぎるので、魔法のランプの精ジーニーに頼んで王子の姿にしてもらいます。そのランプを手に入れて、アグラバーの王位とジャスミンを我が物にしようともくろむのが宰相ジャファーです。ジャファーは妖術を使ってアラジンを捕らえますが、驚くべきことにジャスミンは、アラジンを救うために色仕掛けでジャファーに迫ったりもします。こんな大胆なお姫さまはディズニー長編アニメーションでは初めてのことです。

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●ジャファーに色仕掛けで迫るなんて、白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫にはできません。


 この作品では、危急存亡の時にアラジンが「
Trust me.」と手を差し出すと、ジャスミンは「Trust You.」と応えてその手を受けます。<Dreams  come 
true.
>というキーワードは使われていませんが、互いに信じ合うことでやはり夢は叶うのです。「アラジン」は、ヒロインが「I choose you.」と明確な意思表示で伴侶を選んだ最初の作品になりました。


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●I  choose you.


 前回に延べた最初の
3人のプリンセス、白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫の愛は受身の愛で、待っていて与えられたものでした。

 それから30年後、1990年代初頭の上記3作品で初めて、相手の愛を得るために自分から行動を起す3人のプリンセスが登場しました。6人のプリンセスの姿を通してみると、幼年期から思春期までの女の子の成長過程を見るようです。

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●1989.11.9 ベルリンの壁崩壊。東西ドイツ、統一へ。

 この意識変化は、
1980年代の終りから1990年代初めに掛けての、ペレストロイカ、天安門事件、統一ドイツの誕生、ソ連邦崩壊という矢継ぎ早の世界変容と、社会情勢、男女間における価値観の変動と無縁ではありません。



 次回はさらに時代を進めて、1995年以降のディズニー長編アニメーションに登場するヒロインの姿を展望することにしましょう。 
                           つづく






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