ディズニー再発見13 相手まかせじゃ、愛は不安定。 [ディズニー長編アニメ再発見]
相手まかせじゃ、愛は不安定。
大きく変貌したディズニー映画のヒロイン像 ②
●「美女と野獣」1991 魔法が解けた王子とベル
●「ディズニー長編アニメ再発見-1~4」は下記を。
http://fcm.blog.so-net.ne.jp/archive/c45409934-1
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誰でも知っている「ディズニープリンセス(ディズニー6姫)」。前回は、白雪姫、シンデレラ、そして「眠れる森の美女」のオーロラ姫の人となりについて展望しました。今回はそれからおよそ30年を隔てて現れた、あと3人のディズニープリンセスを展望してみましょう。
●人間の王子に恋をした人魚アリエル
アンデルセンの「人魚姫」を元にした「リトル・マーメイド」(1989)は、一時期停滞気味の長編アニメーションへのてこ入れ策として、ディズニーの新経営陣が打ち出したおとぎ話復活路線の第1弾です。
ヒロインのアリエルは、海の王トリトンの末娘で16才。好奇心旺盛な彼女は陸上の世界を想い、海底に沈んだエリック王子の彫像に憧れを抱いています。ある晩停泊している帆船に近づいて、本物のエリック王子に一目ぼれ。
ところが嵐になり、溺れる王子を助けたアリエルは、彼に対する感情を押さえることができなくなりました。けれども人間と人魚。許される恋ではありません。
このようにこの作品ではアリエルが王子を見染めるのです。ディズニー映画ではこれまでにない全く新しい状況設定です。
●憧れの王子を見に、自分から出かけて行ったアリエル
●人間を愛してしまったアリエルは、自分の美声を犠牲にして魔女から2本の脚を得る。
そこでアリエルはトリトン王に内緒で、海の魔女アーシュラに会いに行きます。トリトン王に代わって海底の覇者を目論むアーシュラは、アリエルが人間になるためには、3日後の日没までにエリック王子から真実のキスを受けることを条件に、アリエルの宝物とも言える美声と交換に彼女に両足を与えます。
もちろんアーシュラは、アリエルの夢をかなえさせる気などありません。それどころか、その期限までの間にあらゆる妨害の手はずを考えていました。
こうして人間の姿でエリック王子に会えたアリエルですが、声が出せないために想いを伝えることができません。3日はすぐに経ってしまい、その日の夕方になりました。
アーシュラは王子や周りの者に魔法を掛けて若い女性の姿で王子の前に現れますが、間一髪、アリエルに声が戻りエリック王子も正気に(この描き方はご都合主義)。巨大ダコの姿で正体を表したアーシュラをエリック王子が成敗して、晴れてアリエルは、人間の姿でエリック王子のお妃になることができました。アリエルは自分の意志で、大きな犠牲もいとわずに、捨て身で愛を貫き通したのでした。
●美女に化けて王子に取り入ろうとする魔女アーシュラ
●おお怖わ。これがアーシュラの本性
●姿かたちではなく、本質を見抜く目を備えていたベル
「美女と野獣」(1991)のヒロイン、ベルは、同じ年頃の娘たちがうつつを抜かしている粗野でうぬぼれ屋のガストンに言い寄られても、まったく意に介しません。この作品では、それまでのディズニー長編アニメーションのキーワード<Dreams come true.>は、ガストンがベルに言い寄る時に、「あんたの夢を叶えて上げられるのは、俺くらいのものさ」というニュアンスで、それまでのキーワードを茶化すような形で使われています。これは、以前の長編アニメからの脱皮をほのめかすものと考えられなくもありません。
当のベルは、大好きな書物に埋もれてすてきな王子様との出会いを夢見ていますが、それが現実的でないことも承知しています。
●読書好きのベルは、粗野なガストンに目を付けられてしまった。自信家は始末が悪い。
ところがある日、発明家のお父さんが森の中で道に迷い、野獣の棲む古城に捕らえられてから、彼女の運命は一転します。彼女は果敢にも年老いた父の身代わりに、人質として古城に留まることを選ぶのです。
最初は野獣を恐れていたベルですが、日が経つに連れて少しずつ野獣の優しさも感じ取れるようになってきたある日、入ってはいけないと言われていた部屋を覗いて野獣の正体を知ったベルは、野獣に見つかり怒りを買って城から逃げ出します。待ち構えていたように彼女を取り囲むのは飢えた狼の群れ。ところがその危機を救ったのは野獣でした。その代わり、野獣は深手を負ってしまいました。手厚いベルの看護で二人の仲はぐっと狭まるのですが、ベルはお父さんのことが心配でたまりません。野獣は、ベルを帰してしまったら人間の姿に戻ることができなくなるのに、彼女を帰す決意をします。
一方、何としてもベルを我が物にしたいガストンは、ライバルである城の野獣に敵意を募らせていきます。ベルが戻ったのを知ったガストンは、期は熟したり、とばかりに村人を扇動して城に攻め込みます。ラストは屋根の上でのガストンと野獣の壮絶なバトル。駆けつけたベルの声を聞いて野獣も力強く応戦します。そしてやはり悪は滅び、正義が勝利するのですが、瀕死の野獣の命を蘇らせ王子の姿に戻したのはベルの愛でした。
ディズニー・プリンセスが登場するこれまでの3作も、ラストはキスシーンでした。けれども、どれも眠りから目覚めさせるおまじないのようなキスでした。けれども「美女と野獣」は違います。こんなにもリアルで美しいキスシーン。それはディズニー長編アニメーション史上、初めてのものでした。
そしてそれは、ディズニー長編アニメーションがもはや子供たちだけのものではなく、またアニメーションとしてではなく、普通の映画として楽しんでほしいとのメッセージを込めて観客に向けられたものでした。
●窮屈なお城の生活に嫌気が差した王女ジャスミン
それまでのヒロインが例外なく、王子さまと結婚してお城に住むことを夢見ていたのに比べて、「アラジン」(1992)が大きく異なる点は、ヒロインのジャスミンは始めからお城の王女さま。反対に、いつもお城を眺めて王子の生活を夢見ているのは貧乏人のアラジン、という真逆の設定であることです。これは新展開のディズニー長編アニメーションが初めて見出した斬新な切り口です。
●お城はアラジンにとっては憧れの場所。ジャスミンには帰りたくない退屈な場所。
舞台はアラビアのアグラバーの都。彼女は退屈なお城の生活に嫌気が差して、街の雑踏を見下ろしながら庶民の生活に好奇心を燃え上がらせています。そんな彼女ですから、お忍びで歩く街中でアラジンと出会って、意気投合したとしても不思議はありません。
一方、お城では王様がジャスミンの結婚を進めようとしていますが、ジャスミンは候補者をみんな袖にしてきました。この作品でジャスミンはアラジンとも対等に張り合います。場合によってはジャスミンがアラジンをリードする場面もあります。
アラジンは身分が違いすぎるので、魔法のランプの精ジーニーに頼んで王子の姿にしてもらいます。そのランプを手に入れて、アグラバーの王位とジャスミンを我が物にしようともくろむのが宰相ジャファーです。ジャファーは妖術を使ってアラジンを捕らえますが、驚くべきことにジャスミンは、アラジンを救うために色仕掛けでジャファーに迫ったりもします。こんな大胆なお姫さまはディズニー長編アニメーションでは初めてのことです。
●ジャファーに色仕掛けで迫るなんて、白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫にはできません。
この作品では、危急存亡の時にアラジンが「Trust me.」と手を差し出すと、ジャスミンは「Trust You.」と応えてその手を受けます。<Dreams come
true.>というキーワードは使われていませんが、互いに信じ合うことでやはり夢は叶うのです。「アラジン」は、ヒロインが「I choose you.」と明確な意思表示で伴侶を選んだ最初の作品になりました。
●I choose you.
前回に延べた最初の3人のプリンセス、白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫の愛は受身の愛で、待っていて与えられたものでした。
それから30年後、1990年代初頭の上記3作品で初めて、相手の愛を得るために自分から行動を起す3人のプリンセスが登場しました。6人のプリンセスの姿を通してみると、幼年期から思春期までの女の子の成長過程を見るようです。
●1989.11.9 ベルリンの壁崩壊。東西ドイツ、統一へ。
この意識変化は、1980年代の終りから1990年代初めに掛けての、ペレストロイカ、天安門事件、統一ドイツの誕生、ソ連邦崩壊という矢継ぎ早の世界変容と、社会情勢、男女間における価値観の変動と無縁ではありません。
次回はさらに時代を進めて、1995年以降のディズニー長編アニメーションに登場するヒロインの姿を展望することにしましょう。
つづく