日比谷公会堂で、手回し蓄音機に萌えた。 [昭和-平成、往ったり来たり]
日比谷公会堂で、手回し蓄音機に萌えた。
●日比谷公園と言えば、まず「日比谷花壇」
●以前の日比谷花壇 2003.4 撮影
都心にはあちこちにオアシスがある。
9月とは名ばかりの暑い太陽の下を歩いて、日比谷公園を目指した。
ここは結構なじみの場所で、銀座へ出た折に、
時間があれば寄ってみたくなる。
時間的には正午を回っていて、大噴水の周りに人影は少なかった。
木陰で憩うのもいいが、その日はなぜか日比谷公会堂を見たかった。
日比谷公会堂は知人がリサイタルを開いたり、
中学生だった息子がブラバンの全国コンクールで金賞を取ったりしたところで、
思い出も多い。
その日はコンサートはなく、周囲は静かなものだった。
●日比谷公会堂 正面
●建設中の日比谷公会堂
●あれ。氷ののぼりが・・・
日比谷公園がわが国初の本格的洋式庭園として誕生したのは1903(M36)年。
1923(T12)年には3000人を擁する野外大音楽堂も併設されるが、
日比谷公会堂は1929(S4)年10月、
当時の安田銀行創設者・安田善次郎の寄付で「東京市政会館」として発足。
もう80年以上も経っている。
観客席は1階と2階で2000余名というビッグスケール。
最新の音響技術を採り入れたアール・デコ調のモダンな音楽ホールは、
世界的な音楽家たちのコンサート会場として人気を博してきた。
1970年代以降になると音響関係のシステムや設備が飛躍的に進み、
東京のあちこちに本格的なコンサートホールが生まれると、
日比谷公会堂のホールはクラシックには適さなくなり、
ジャズコンサートや歌謡コンサートなどに移行し、
本格的なコンサートホールとしての役割は縮小。
戦前・戦後にかけて、ルービンシュタイン、カラヤン、メニューインといった巨匠を招聘し、「日本のカーネギーホール」と呼ばれた日比谷公会堂も、
現在では主に講演会や音楽関係の講習会などで利用されているようだ。
●タイムトンネルの入り口で~す。
日比谷公会堂の正面を撮影していたら、入口前の立看板が目に入った。
「日比谷公会堂 アーカイブ・カフェ/入場無料」とある。
昔からの経緯が展示されているらしい。
これは寄ってみなくちゃ、という気になった。
「入場無料」が魅力的だったことには違いないが、
看板にはアイスもなかとクリームあんみつの絵がある。
久しぶりに甘いものでも、とクリームあんみつを奮発することにした。
それはもちろん有料で700円。
●海外巨匠のコンサート写真が、往時の栄華を物語る。
●クロークカウンターの中央に鎮座まします年代物蓄音機、
1階のその場所は、本来はクロークカウンターのあるホールらしく、
ここ数年は喫茶室として使われているようだ。
周囲にはエレベーターや階段が、多少時代がかった雰囲気で残っている。
入り口のガラスをはめ込んだドアの感じ、鉢植えの観葉植物、
天井の裸の配管、不揃いのテーブルや椅子・・・
それらが、この喫茶室自体の推移を物語っているようだ。
●喫茶室の変遷が分かる、意匠の違う4つのイス ●蓄音機正面のスペシャルシート
客は私一人。
店内を見回した後、正面のクロークに向かうと、
そこに展示してあったのが大きな木製のコンソール。
こういった場所ではよく円盤式のオルゴールを拝見するが、
これは蓄音機ではないか。
そこにクリームあんみつが運ばれてきたので、
座席を蓄音機の正面と決め、「これは蓄音機?」と聞くと
ここを一人で切り盛りしているらしいマスターは、そうだという。
「聞きますか?」と聞くので、「いいねぇ」と答える。
マスターがコンソールのふたを開けると、よく磨かれたヘッド。
まさしく蓄音機のあの姿が現れた。
マスターはクロークのカーテンの裏から78回転の円盤を取り出し、
コンソール脇のクランクを5~6回回すと、
「では、クラシックから」。
●コンサートマスターならぬ蓄音機マスターによる機械演奏のはじまりだ。
His Masters Voice とふたの裏に描かれた白犬の絵は古風なもので、
この喫茶室の経営者が探してきたイギリス製だとのこと。
当時、家が一軒買えるほどの値段だったという。
驚いたのはその音量で、アンプで増幅したとしか思えないほど大きい。
もちろん電気を使っているはずはない。
確かめると、コンソールの構造が拡声器の働きをしている、という。
次にローリングトゥエンティを思わせるけだるいジャズ演奏に変わると、
古ぼけた喫茶室はモボ・モガが入り乱れて踊る華麗なダンスホールに。
これだけの音量なら、当然大勢を集めたレコードコンサートに使われたり、
社交場の中心に置かれたものだろう。
レコードは次第にポピュラーなものに変わり、
若々しい淡谷のりこの歌曲、デビューしたての美空ひばりの歌声で幕を閉じた。
●展示されているアーカイブの一部
聴衆がたった一人の演奏会は終わった。
平日の午後、公会堂でイベントのない日なら。
そして喫茶室の客が少なかったら、
あなたも一人だけの蓄音機コンサートを体験できるかもしれない。
私がマスターに、このことは宣伝しておいてあげるから、と言っておいたから。
なお「日比谷公会堂 アーカイブ・カフェ」は、まだしばらくはやっているとのこと。
こんばんは。
聴衆一人の貸し切りクラシックコンサート! しかも、ブラックコーヒーではなく、クリームあんみつをお口のお供にとは意外なるかな(笑)
これはすこぶる保存状態の良いアナログ・・・デジタルでは決して味わえない情緒!
by あら!みてたのね (2011-09-09 21:39)
今晩は^^
なかなかよいですねぇ、このレトロな雰囲気!!
by niki (2011-09-10 01:46)
お早うございます。
至福のひとときでしたね〜〜〜 懐かしさがイッパイ〜(*^_^*)
by yakko (2011-09-10 09:06)
お話を見ながら考えました。たぶんヨーロッパなら、このレトロな建物や雰囲気を利用したレストハウスが、上手に運営されているだろうな・・・と。古い建物を大切にしていくという価値観が、日本には欠落していますね。
by 般若坊 (2011-09-10 09:32)
あの長い戦争が始まる前の一時のモダンさを感じますね
箱の横にたくさんの針が置いてあったのを思い出します
日比谷花壇の花束があこがれでした(笑)
by pace (2011-09-10 09:42)
日比谷公園とあの一角、とてもいい雰囲気がありますね。
たった一人の蓄音機コンサート、よい時間を過ごされましたね。
by アヨアン・イゴカー (2011-09-10 15:32)
yannさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-10 16:07)
あらみてたのねさん、こんにちは。
看板にはアイス最中とクレームあんみつしか書いてなかったから。
そうですよね、コーヒーは当たり前にあるはずですよね。あはは・・・。まったく気が付きませんでした。融通が利きませんね。
蓄音機はさすがに手入れが行き届いておりました。
by sig (2011-09-10 16:12)
あんれにさん
kyrakichiさん
こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-10 16:13)
nikiさん、こんにちは。
都心も高層ビル化が進んで、このあたりでは数少ない貴重なレトロです。
by sig (2011-09-10 16:14)
masao。さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-10 16:15)
yakkoさん、こんにちは。
まさか客が私一人だけとは思いませんでした。出るころに2人入ってきましたが、なかなか得難い時間でした。
by sig (2011-09-10 16:17)
般若坊さん、おっしゃる通りですね。
ちょっと手を加えれば立派に営業が成り立つものを・・・と思いました。
80年を過ぎた建物ということで、新しい投資は考えられないのでしょうね。惜しいことです。
by sig (2011-09-10 16:19)
paceさん、こんにちは。
戦前からの建物はとても少なくなりましたね。
この喫茶店の内部の雰囲気は見覚えがありますね。このモダンさはみんな鋭角的なラインを持つ無味乾燥なものに変わってしまいました。
蓄音機の針は、しっかり金属製でした。竹の針を使ったのは戦中戦後でしょうか。
by sig (2011-09-10 16:27)
市丸さん
lamerさん
hideyaさん
okon-02さん
こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-10 16:31)
アヨアン・イゴカーさん、こんにちは。
暑い時間帯だったのですが、ここに立ち寄ってよかったです。
ほんとうに楽しくて贅沢な時間でした。
by sig (2011-09-10 16:33)
こんにちは!
蓄音器・・・・・いい感じですね==
何でもかんでも手軽になってしまっている世の中ですが
やっぱり こういうのが手間がかかりますが
いいな~~
by やま (2011-09-10 17:17)
金沢に蓄音器の博物館ありますよ~
行った事ないですが^^
by くまら (2011-09-10 18:13)
やまさん、こんばんは。
子供のころ蓄音機から音が出るのが不思議でなりませんでした。やはりハンドルを回してのぜんまい駆動でした。たからとても懐かしい感じでした。やまさんの手づくりタッチ、最高です。手間がかかっているのでしょうね。
by sig (2011-09-10 20:38)
くまらさん、こんばんは。
金沢は蓄音機に限らず、懐かしいものが何でもそろっていると思いますよ。形のあるものもないものも。
by sig (2011-09-10 20:39)
yu-papaさん
ぼんぼちぼちぼちさん
こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-10 20:40)
日比谷公会堂はまだ入ったことがありませんが
野外音楽堂ならばよく行ってました^^
中はこうなっているのですね〜
この「老舗度」、九段会館とどっちが上だろう?
日比谷公園も、よくイベントが行われていて
楽しいところですよね。
by Ja-Kou66 (2011-09-11 01:05)
Ja-kou66さん、こんにちは。
九段会館は1934、日比谷公会堂は1929ですから、こちらが先輩格ですね。どちらも二二六事件などを見てきているわけですから、長命なものです。九段会館の天井崩落が治ったら、どちらも保存したいものですね。
by sig (2011-09-11 08:53)
pandanさん
toramanさん
galapagosさん
ChinchikoPapaさん
flutistさん
No14Ruggermanさん
こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-11 22:12)
素晴らしい体験ですね。チャンスがあればぜひ聴いてみたい。
by mwainfo (2011-09-11 22:54)
ほりけんさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-12 00:04)
mwainfoさん、こんばんは。
たまたま私一人だったのですが、とてもラッキーだったと思います。
ジャズ系をもっと聞きたかったのですが、ちょっと遠慮しました。笑
by sig (2011-09-12 00:06)
sanaさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-12 00:07)
sigさん!! 素晴しいレポートです! 私も最近たまに日比谷公園は通りかかるものですから、特に愛着が湧いてしまいました。しかも日比谷花壇さんの以前の建物という貴重な写真もあったり(今度ぜひ私のブログに貸してくださ〜〜〜い。あ、無料でお願いしますっっっ(笑))、日比谷公会堂の姿とか…興味津々!!
そして「日比谷公会堂 アーカイブ・カフェ」存在自体、全く知りませんでした^^; 確かに…日比谷公会堂は名前は知っているものの入ったことはなかったし(あったかもしれないけれど…よく憶えておりません)。だけど、こんなに貴重な一人コンサートまでやってもらえるなら、時間を作ってでも行きたくなりますね^^ 動画なども撮りたいところです(笑)。さすがに古いものだから著作権絡みも大丈夫そうな気がしますが…どうなんでしょう?
by うさ (2011-09-12 15:39)
ご訪問くださり、有り難うございます^^
by yu-papa (2011-09-12 16:42)
うささん、こんばんは。
うささんサービス(日比谷花壇)を意識したこの記事、喜んでいただけたようでうれしいです。2003年の写真はビデオの画像なので汚いのですが、よろしかったら使ってください。タダもちろんOK。うささん限定です。ダブルクリックするとはがき大くらいになります。他に似たカットですが3種類くらいあります。必要ならお送りします(どうやって?)。
このカフェの蓄音機に掛けたレコードは、もう著作権は切れているのではないでしょうか。でも、レコード会社や音楽出版社はしっかりと権利を握っているんですよね。
by sig (2011-09-12 19:57)
yu-papaさん
めぇさん
とらさん
こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-12 19:58)
cheeさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-12 22:46)
いつも訪問ありがとうございます。
by pandan (2011-09-13 07:48)
タイムトンネルの入り口、入ればモボ、モガの時代・・・
もちろん知ってるわけではありませんが、イイ時代だったのでしょうね。
ビクターのワンコは懐かしいな・・・♪
by 路渡カッパ (2011-09-13 09:27)
pandanさん、再度ごていねいにありがとうございます。
by sig (2011-09-13 11:32)
りぼんさん
のりもさん
こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-13 11:33)
路渡カッパさん、こんにちは。
大正の優雅な時代ですね。これだけの音量ですから、当時のダンスホールあたりで堂々と演奏されていたのではないでしょうか。ビクターのマークも古いデザインでした。
by sig (2011-09-13 11:36)
え"っ、あの蓄音機が現役で、しかもかけてくれるなんて知りませんでした
毎日日比谷公会堂とはご挨拶をしているのに、これは大発見
by 駅員3 (2011-09-13 18:52)
蓄音機コンサート、贅沢ですね。
アナログはホッとしますね。
by OMOOMO (2011-09-13 23:19)
thisisajinさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-14 08:15)
駅員3さん、こんにちは。
無目的で歩くと面白いことにぶつかるものですね。
この蓄音機の音量にはビックリです。たぶんダンスホールあたりに置かれて活躍していたのではないでしょうか。
by sig (2011-09-14 08:18)
kakashisannpoさん
yukiさん
こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-14 08:19)
OMOOMOさん、こんにちは。
もうすっかりデジタルにならされてしまいましたが、だからこそアナログが現役で活躍しているのに遭遇するとうれしくなりますね。
by sig (2011-09-14 08:22)
末尾ルコさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-14 08:23)
再訪です^^
sigさん、ご快諾くださり、ありがとうございます! さっそくお写真ダウンロードさせていただきました。大切に保管します。もう少し先のことになると思いますが、記事に使わせていただいたら、御連絡いたしますね^^
by うさ (2011-09-16 01:42)
yhiga-shiuraさん
いっぷくさん
corradoさん
MI_GR_さん
トメさん
urara☆さん
こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-20 00:26)
うささん、こんばんは。どうぞよろしくお願いします。
by sig (2011-09-20 00:28)
アーカイブカフェは、たぶん、sigさんのレポートで、より魅力を増しているからこそ行きたくなりますね(^_-)
それに、あんみつ好きの私にとって、より魅力的です~♪♪♪
by urara☆ (2011-09-20 00:29)
uraraさん、こんにちは。
あはは・・・、ホントいうと確かに展示はちょっと拍子抜け。真実を見抜かれてしまいましたね。笑 でも、蓄音機はよかったです。あんみつはまあ、あんなものでしょう。クスクス
by sig (2011-09-20 11:06)
kiyoさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-09-20 11:07)
初代安田善次郎が大磯で暗殺されて、久しいですが、東大安田講堂、日比谷公会堂との関わりを思いました。
曾孫の小野ヨーコの存在も不思議な縁があるのですね。
安田家の中で、二代目善次郎氏に只今興味を持っています。
by SILENT (2011-09-22 10:13)
SILENTさん、こんにちは。
人物も企業も時代によって評価は変わるのでしょうが、昔の財閥は負の面も持ち合わせていたでしょうが、かなりの社会還元を行っていた気もします。やはり、時代を見つめる目が現代の為政者たちと違うということでしょうか。一本 筋が通っていたようですね。
by sig (2011-09-22 15:32)
hayama55さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2011-11-12 16:52)